| BGM “HEDWIG AND THE ANGRY INCH”Sound Track
よくわたしの作品を買ってくれる友達が、彼女が働く会社で営業してくれて、アルバイトの人から発注を取ってくれた。
マジックワンド・リングをトルコ石で、アクアデリジオッソ・リングをロードライトガーネットで作った。注文をくださったかたは、かなりの美女らしい。友達と注文くださった美女に感謝します。
日曜日の昼日中ジム帰り、いつものようにスッピンで、その日はスーパーで買ったトイレットペーパーを抱えて歩いていたというのに、男に声をかけられた。
自転車に乗った男が、わたしを追い越し振り返って、わたしの顔をチェックし、戻ってきて、わたしの脇で自転車を止めた。
嫌だ。声かけないで。せめて道をきくだけにして。“突然ですが、、、、” なんですか?道?“お友達になりたいと思って” わたし、友達になりたくない。わたしの返答は男を諦めさせるのに充分だった。
黄金週間のさなか、ダンサーがインストラクターのエアロビクス・クラスに出ていた。気がつくとクラスが始まったときにはいなかった、大柄の中年女性が最前列にいた。
その人はミシュランタイヤ・マスコットの体型で、黒五分丈スパッツに黒スポーツブラ、黒キャミソールを着ていた。
リズムにうまく乗れていなかった。
まわりが彼女の出現にざわめいていた。
嘲笑と非難の渦。
小声で仲間同士囁きあっていた。なに?あれ。
彼女を前にも見たことがあった。そのときは、トップは黒スポーツブラだけで、やはり人々の目をうばっていた。はみ出した肉塊に目をうわばれていたのだ。
クラスが終わった後、シャワーを浴びてパウダールームに髪の毛を乾かしに行くと、若い子たちがミシュランオバサンの噂をしていた。
笑いが止まらなかった。よくあんな格好で来るよね。口々に言っていた。若い子たちは不寛容だ。不寛容なのは若い子たちばかりではなかった。若くない女の人たちも、ミシュランオバサンをうろんな目で見て口々に言っていた。凄いねえ。
わたしはミシュランオバサンを応援したい。もっと過激で華やかな格好で最前列で踊ってほしい。なんならわたしがスタイリングを引き受けてもいい。黒レースのボンデージでまとめてあげたい。彼女はまわりの嘲笑など、へのかっぱ、いや、気がついてさえいなかったもしれない。
ずっと気がつかずにアナーキーで突っ走ってほしい。こと服装と肌の露出度に関しては。
わたしは電車の切符売り場などで、横入りする中年女性特有の行動には、心の中で、だから女子供は、、、とひとくくりにされるんだよと悪態つくが、こと服装に関しては鷹揚だ。
件のミシュランオバサンにしたって、まわりの人にぶつかって迷惑をかけていたわけじゃなし、なにを着ていたって、だぶついた肉塊を露出させていたって、いいじゃないと思う。
わたしがミシュランオバサンに対して鷹揚なのは、人がわたしに対しても鷹揚であってほしいという願いの現れだ。
スポーツジムには暗黙の掟のようなものがある。
新参者がスタジオで一番前に陣取っていると、古参者に非難される。新参者は、まず目立たぬように後ろの方でやるべし。
慣れてきたら、じょじょに前進すべし。
暗黙の掟その一。
だが面と向かって非難されることはない。新参者でいる限り。陰で言われるだけだから、本人が気がつかなければ、どおってことはない。
前の方がインストラクターの動きがよく見えるし、どの場所を選ぼうが自由なはずなのに。うまく踊れる者は最前列にいてもよい.
暗黙の掟その二。
わたしのように考える者は少数なのだろう。人々がミシュランオバサンをうろんな目(ダーティ・ルッキングね)で見て陰口をたたくのは、はみ出した肉塊を露出させているからだ。
それはリズムに乗れないのにスタジオの最前列にいることを凌駕する。醜い物は隠すべき。
暗黙の掟その三。
以前通っていたジムにクイーンがいた。聞くところによると、シャワールームでオバサン連中に総すかんにあい、閉め出されたらしい。アングリー数インチが気持ち悪いといって。
わたしは話を聞いて、彼女(クイーンだから)を可哀想だと思った。
アングリー数インチを露出させてシャワールームを歩き回っていたのなら、タオルで覆うように注意すればいいのに。
閉め出すなんて酷すぎはしないか?そしてオバサン連中は、元男に自分たちのハダカを見られたくなかったのだろう。
この人たちに、クイーンの心は女なんだから、と言っても理解しまい。
両性具有者は女子シャワールームに出入り禁止。
暗黙の掟その四。
理解不可能なもの、感覚を共有できないものは排除される。クイーンは男性用シャワールームにも女性用シャワールームにも行けない。行き場がない。
やがて彼女はジムに来なくなった。
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